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広島高等裁判所松江支部 昭和53年(ネ)36号 判決

控訴人・付帯被控訴人(被告)

日産火災海上保険株式会社

被控訴人・付帯控訴人(原告)

村山哲三

主文

本件控訴を棄却する。

付帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

控訴人(付帯被控訴人)は被控訴人(付帯控訴人)に対し、一〇九九万九四四〇円及び内金二〇〇万円に対する昭和五一年八月一四日から昭和五二年三月一四日まで年五分の、同月一五日から支払ずみまで年六分の各割合による、内金八九九万九四四〇円に対する昭和五一年八月一四日から昭和五三年九月二〇日まで年五分の、同月二一日から支払ずみまで年六分の各割合による各金員を支払え。

被控訴人(付帯控訴人)が当審で拡張したその余の請求を棄却する。

控訴費用は付帯控訴費用も含めて控訴人(付帯被控訴人)の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(控訴人(付帯被控訴人。以下単に控訴人という。))

「原判決を取り消す。被控訴人(付帯控訴人。以下単に被控訴人という。)の請求を棄却する。被控訴人の付帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決 (被控訴人)

「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決及び付帯控訴として「原判決を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人に対し一〇九九万九四四〇円及びこれに対する昭和五一年八月一四日から支払ずみまで年六分(年五分を当審において年六分と拡張した。)の割合による金員を支払え。」との判決

第二当事者双方の主張

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。

1  原判決三枚目表六行目から九行目までを左記のとおり改める。

「(六) 被控訴人は西谷定光の相続人らに対し、昭和五一年一月七日、同年八月五日、昭和五二年五月六日に各一〇〇万円を、同年八月一一日に八〇〇万円をそれぞれ支払つた。

(七) よつて、被控訴人は、控訴人に対し前記一〇九九万九四四〇円の支払を請求したが控訴人はこれに応じないので、右同額の保険金及びこれに対する本訴状送達の日の翌日の昭和五一年八月一四日以降商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

2  同四枚目裏末行の末尾に「同(六)のうち、被控訴人が昭和五二年五月六日に一〇〇万円を、同年八月一一日に八〇〇万円を支払つた事実は知らない。」と付加する。

3  同五枚目裏五行目の「会社の従業員」の前に「その勤務時間中であつたことは勿論、まだ休憩時間にもなつていなかつたうえ、」と挿入する。

4  同じページ八行目の次に左記のとおり付加する。

「そもそも、被保険者がその使用者の業務のためにその使用者の所有する自動車を運転しているときには保険金支払の責を負わない旨の免責規定が設けられたのは、被保険者がその使用者の所有自動車をその業務のために運転しているときの危険は使用者が負担すべきであるとの考慮によるものであるから、『業務のため』か否かは使用者と被用者との関係だけから判断すべきではなく、被害者に対する関係において、抽象的・客観的に使用者の業務のための使用と認められることを要し、かつこれをもつて足りると解するべきである。そして本件事故当時、被控訴人が勤務時間中でなく、本件事故がその休憩時間中あるいは就業時間後に起こつたとしてもその業務性は高く、本件は被控訴人の使用者で運行供用者責任、使用者責任を負つている訴外日本交通株式会社の責任の枠内で処理されるべき事例である。」

第三証拠関係〔略〕

理由

一  当裁判所は被控訴人の本訴請求(当審での拡張部分を含む。)を、本判決主文第二項の限度で認容すべきものと判断する。その理由は左記のとおり付加、訂正をするほか原判決理由一、二説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決六枚目裏一行目の次の行に次のとおり挿入する。

「(三) 被控訴人が西谷定光の相続人らに対し、昭和五一年一月七日及び同年八月五日に各一〇〇万円を支払つた事実は控訴人の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなすべく、また、被控訴人本人尋問の結果(原審)によつて成立を認める甲第三号証によれば、被控訴人が右西谷の相続人らに対し、昭和五二年五月六日に一〇〇万円を、同年八月一一日に八〇〇万円を支払つた事実を認めることができる。」

2  同じページ一〇行目の「繰車係」を「操車係」と、同八枚目表二行目の「使用型態」を「使用形態」と各訂正する。

3  原判決九枚目表六行目の「甲第一号証、」の次に「当審証人国政忠雄の証言及びこれによつて成立を認める甲第九、第一〇号証、」と、同じページ九行目の「九時までで」の次に「(操車係中被控訴人の属する乙勤務に係る勤務時間についての就業規則の定めは、当時労使間の合意により右のように変更されており、九時から二二時までの適宜の一時間と、二二時から翌日の六時までが休憩時間とされていた。)」とそれぞれ挿入する。

4  同一〇枚目表八行目の次の行に次のとおり挿入する。

「 控訴人は『使用者の業務のために』運転した場合か否かは被害者との関係において抽象的、客観的に判断さるべき旨を主張する。しかしながら、被保険者が、その使用者の業務のためにその使用者の所有する自動車を運転しているときには保険金を支払わない旨の免責規定が設けられたのは、控訴人主張のとおり被保険者の使用者の業務のために他車を使用することによる危険はその使用者が負担するのが当然であるとの考慮に基づくものであると解されるけれども、逆に被保険者の使用者が民法七一五条による使用者責任を負うべき場合には常に右免責規定の適用があるとすべきか否かは被保険者との間に締結された保険契約の解釈として別個に判断すべき事柄である。(なお、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者としての責任は、使用者の業務と直接の関連性を有するものではなく、右運行供用者責任の有無は本件免責規定の適用の有無に影響を及ぼさない。)すなわち、不法行為のうちでも自動車事故のような事実行為から生じた損害について、被害者が加害者の使用者に対して民法七一五条によりその損害の賠償を求める場合、当該事案がその事業の執行に付きなされたものであるか否かはその行為の外形から判断さるべきであるとの解釈は当該事案のもとにおいてその損害を加害者側である使用者と被害者のいずれが負担するのが公平であろうかとの考慮に基づくものでもあるから、前記保険契約において他車運転条項に基づく控訴人の責任を免れさせるべきか否かが問題である本件の場合、被保険者の使用者が民法七一五条による使用者責任を負うときは免責とする旨定められているのではなく、単に業務のために運転した場合を免責とする旨が定められている前記免責規定を前者のとおり読み替えをするような解釈をするのは相当ではない。そして『業務のために』とは被保険者の使用者の利益をはかることが前提となつているのであつて『事業の執行に付き』よりも狭い概念であると解されるのであるから、本件において被控訴人の使用者である訴外日本交通株式会社が被害者に対して民法七一五条による責任を免れないにしても、前認定のとおり被控訴人の本件自動車の運転が竹内の依頼に応じて専ら竹内のために私的になされたものである以上、これが右訴外会社の業務のためになされたものということはできず、前記免責規定を適用する余地はないものといわなければならない。」

二  前記のとおり被控訴人と被害者である西谷定光の遺族らとの間には示談が成立しているところ、被控訴人本人尋問の結果(原審)によれば被控訴人は示談後右示談により支払うべく定められた金員の支払を控訴人に請求していたことが認められるので、被控訴人は控訴人に対し、前記一〇九九万九四四〇円と同額の保険金とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年八月一四日以降民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ、更に被控訴人が現に支払つた金員についてはその旨を控訴人に告知した日の翌日から商法所定年六分の各割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきであり、右の告知がなされたのは二〇〇万円につき昭和五二年三月一四日、八九九万九四四〇円につき昭和五三年九月二〇日であることが記録上明らかである。従つて被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し一〇九九万九四四〇円と内金二〇〇万円に対する昭和五一年八月一四日から昭和五二年三月一四日まで年五分の、同月一五日からは年六分の各割合による金員と、内金八九九万九四四〇円に対する昭和五一年八月一四日から昭和五三年九月二〇日まで年五分の、同月二一日からは年六分の各割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は失当として棄却すべきである。よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し、付帯控訴に基づいて原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤原吉備彦 前川鉄郎 瀬戸正義)

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